2007年01月24日

地獄少女二籠 第12話 「黒い轍」

 夜の山道を軽快な音楽と共に走るトラック、そのライトの先に浮かび上がる人影。
 急ブレーキをかけ止まったトラックの運転手(道郎)に「ヒッチハイクって奴をお願い出来るかい」と輪入道。


 

 家の中へ入ってきたきくりだが、誰もいない。だが障子に映る祖母の姿に気付くとそこへ入り、糸車の真似をして遊んでいたかと思うと、回る糸車のあいだに指を突っ込もうとする。
 「およしよ」と止める祖母だがお構いなしのきくり。
 だがその時「お止めなさい」というあいの声に、きくりは動きを止める。
 きくりが障子を開けると、あいが着物の前に立っていた。「一緒に来る?」「うん!」。
  ― “おばあちゃん”は、きくりにその行動を止めるよう言葉では言っても、実力行使はしないというより『出来ない』ようです。ならば糸車を止めればいいのにと思いますが、どうやらこれも不可(不可能)らしく、どこまで行動を制限されているのかが、よく分かりません。なんとなく正体は最期まで明かされないというより、考えてないような気がしますが、果たして…?

 一方、トラックの中の男と輪入道。日が暮れたらこのあたりのバスは終わるから気をつけなきゃ、と男。
 あまりに懐かしくてつい長居をしたと答える輪入道に、昔住んでいたのかと尋ねる男、そんなようなかな、と輪入道。

 ― 回想 ―
 山道で、石に牛車の車輪がとられ、棒を梃子の原理でなんとかしようと持ち上げようとしている人々 ―

 あの頃はこんなきれいな道は無かったと呟く輪入道に、最近出来た道だと男は答える。
 輪っかの付いたものが昔から好きで、高校卒業後ずっとトラック運転一筋さ、と話す男に気が合いそうだな、と輪入道。
 自分が仕事を始めた頃はこの道は無く旧道を通っていた(窓の外に旧道が見える)、あっちの道なら見覚えがあるだろ、と男。小さく顔を上げそして伏せる輪入道。思い出のデートコースなんて甘やかなものじゃない、と輪入道は答える。

 ― 再び回想 ―
 なんとかさっきの場面を脱した牛車だが、追っ手はすぐ近くに迫っていた。
 「行って下され姫!」の声と共に牛に鞭が当てられ、牛車は動き出す。

 (走りにゃあ自信があったんだけどなあ) (輪入道)

 男は自販機の前で飲み物を買うと、輪入道にも緑茶缶を渡す。
 
 「でもこの道も完全に完成したわけじゃないんだ」とトラックを発車させながら男は言った。
 トラックのカーステレオからは優しいメロディーの音楽が流れ始める。
 この先に立ち退きを拒否して立ち退かない家があり、そこだけは旧道を通らなければならないが、その直前まで新道が通っているため、道は狭く悪くなる上、ヘアピンカーブなのですごく危険なんだ、と男。
 そのせいでついこの間も高校生が死亡してしまったと男は語る。
 (そうか、あそこか ―)と、輪入道。

 ― 回想 ―
 走りに走る牛車。後ろから迫る追っ手は次々に火矢を射掛け、当たった火矢はたちまち車を炎で包み込む。慄く姫や乳母たち。
 そして牛車は、くだんのカーブを曲がりきれず、護衛の付き人たちを振り落とし、谷下へと落ちていく。
 地面に叩きつけられた衝撃で、ぶすぶすと火の燻る車輪のひとつが牛車から外れて転がった…

 (もう何百年、経つのかなあ…) (輪入道)

 「そういうの、許されると思うかい?」(男) 「は…?」(輪入道)
 「その家が立ち退かないせいで事故が起こって人が死んでるのに、まだゴネてる。立退き料の吊り上げを狙ってるという噂だけど、そんなに金が欲しいのかね」。

 夜中、その家の前でドンドンと扉を叩く音が。
 ずっと歩き詰めで人家も無く疲れて果ててしまったので、少しでいいので休ませて欲しいと懇願する声に、仕方ないという表情で扉を開ける老人(亀岡)。
 「ひとりか」「はい」そこに立っていたのは骨女。
 骨女は、彼氏とデート途中喧嘩してしまい、勢いで車を降りたものの、いつまで歩き続けても辿り着けず、携帯も彼の車に置いてきてしまい困っていた、と事情を話す。
 老人は囲炉裏に火を起こした。
 「老人の一人暮らしじゃ、大したもてなしも出来んが」 「お構いなく」
 その時、うっと胸を押さえる老人。
 「どうしたんですか」「なんでもない」「…」(骨女)

 トラックの中、しばし黙ったままのふたりだったが、男が口を開く。『地獄通信』を知ってるか、と。
 そういう名のHPにアクセスし、恨んでる相手の名前を書き込むとそいつを地獄へ送ってくれる、自分も昨日そこへアクセスしたのだ、と。
 誰か恨んでるのか、という輪入道の問いに、「あの家のジジイだ」と男は答える。この間事故で死んだ高校生は自分の弟なのだ、と。
 「自分と同じく車が好きで、高卒後は自分と同じ職につきたいと、この道を通ってて…」
 カーブを曲がりきれずに落下し炎上する車、仰向けになった車体の車輪のみが空回りしていた ―

 「なのにあのジジイ、まだ立ち退き利用の吊り上げをやろうとしてたんだせ。許せると思うか? だからオレはあのシジイの名を地獄通信に書き込んでやった。だが何もおこらなかった。噂じゃ地獄少女が現れるって話だったが、オレの前には現れなかった」
 「…」 (輪入道)
 「噂なんて当てにしたのが間違いだったのかもしれない(目に力がこもる)。自分の手を汚さず弟の仇を取ろうだなんて」。

 老人の家。
 囲炉裏部屋の隣の部屋には、老人の寝ていた布団と、梁?に飾られた何枚もの写真と仏壇、そしてその仏壇には、老人の伴侶らしき微笑む老女の写真があった。
 「皆んな死んでしもうた」
 立ってその部屋を見ていた骨女は、その声に囲炉裏の前の老人の方へと顔を向ける。
 長兄は戦死、他の兄弟も事故死や病死、つれあいも3年前に…
 もう自分も長くないだろう、そしてこの家も… と語る老人。

 トラックが無人販売所に停まると、輪入道に携帯電話を渡し、タクシーを呼ぶように話す男。降りろと言うのか、と言う問いに頷く男。何をするつもりだ? と、輪入道。
 地獄少女が来てくれないなら自分がやるしかない、と男が言い、輪入道は「そうか」と返す。
 特攻を止められると思ったと驚き気味の男に、止めてもやるんだろ、と輪入道は答える。
 「ああ」と男は頷く。「あの家がある限りまた同様の事故が起こる。誰かがやらなきゃならないんだ」― と。
 「それに誰かが弟の仇をとってやらなきゃ弟が可哀相だろ」。

 「最近色んな連中がここを立ち退けと言ってくる。この家は新しい道路を作るのに邪魔なんじゃそうだ。この家はもう何百年も前からここにあったというのに」
 黙って聞いている骨女。
 「それにここを出てどこへ行けというのじゃ。わしの家は生まれてからずっとここじゃ、今更知らない土地で知らない人間に囲まれて暮らせというのか」
 「世間の連中は、わしが立退き料目当てにゴネてると思うとるようだがとんでもない(老人俯き加減になる)、金なんか一銭も要らん、ただ死ぬまでここで静かに過ごしたいだけじゃ」
 一部始終を見ていた天上の目が閉じられた。

 輪入道を残して発信するトラック。
 ふと気配を感じて輪入道が振り向くと、そこにはあいが立っていた。
 「お嬢…」

 トラックのカーステにCDを入れると、ガンガンな(死語…;)ロック調の音楽が鳴り響き始めた。
 「シュン(ジュン?)、お前の仇はとってやるからな」
 男は決意の表情でアクセルを踏み込む。

 突然湯のみを取り落とし、胸を押さえる老人。
 慌てて立ち上がり背中をさする骨女に、「仏壇の…引き出し…」と、震える手で指差す老人に、「引き出しの中に薬があるんだね」と承知したように立ち上がり、引き出しを開けた骨女だが、そこにあったのは薬ではなく、一通の白い封筒だった。思わずハッとなる骨女。

 一方、加速度を上げ続けるトラック。「いくぞーッ!」。
 「そんなに力んでちゃあ、あの家に突っ込む前に事故っちまうぜ」
 この声に驚いて隣を見ると、そこには確かに降ろしたはずの輪入道の姿が。
 「地獄少女は依頼を出してすぐ来るとは限らねえ。依頼者の心の声を聞くために、俺たちみたいな者を使いに出すこともあるのさ」
 そういうと輪入道は赤いマフラーを首に回す。すると藁人形の姿になり、いつの間にかそこに座っていた少女の膝に落ちる。人形を手に取るあい。
 「地獄少女…」 トラックはスピードを落とし停車する。
 「受け取りなさい。まだ間に合うわ」「え?」 いつも通り説明をはじめるあい。
 自分も死後地獄へ行くと聞き、瞬間息を飲み考えた男だが、いいさあいつを地獄へ流せるなら ― と、糸を引こうとした瞬間、「あんたの依頼は無効になった」という声が。
 「そう、少し遅かったようね」
 「無効ってどういうことだよ!」
 後ろの座席から一目連が身を乗り出す「流すべき相手がいなくなったってことさ」。

 布団に寝かされ指を組まれた姿の老人。その脇に座っていた骨女が頭(かぶり)を振るといつもの姿に戻った。
 きくりがやって来て老人の頭を突付く。
 「そんなことしてるなら花でも手向けておやり」「ハナ?」
 そう言うと骨女の鼻をつまもうとするきくりに「その“ハナ”じゃない!」と骨女が顔を振り叱り付けると、きくりは障子を閉め出て行く。

 「死んだ…? あのジジイが!?」
 「だいぶ前から心臓が悪かったようだな。たった今死んだよ」(一目連)
 藁人形から人間の姿に戻った輪入道が携帯を置き「残念だったな」と声を掛ける。
 だが半放心状態から醒めた男は、「冗談じゃない、まだ弟の仇をとってないんだぞ!」とハンドルをドンと叩く。
 やがて男は思いつめた目で言った「いや、あいつはまだ生きている」。
 何!? という感じで一気にその場の空気が変わる。
 「オレがこの手で地獄へ送ってやるんだあ!!」という叫びと共に急発進するトラック。
 「止めろ、無意味だ」という輪入道の言葉も耳に入らず「弟の仇―ッ!」と更にスピードを上げ続けるトラック。

 紫の花(桔梗?)を腕一杯に抱えたきくりが道路を渡っていた。
 ライトに照らされその姿を認めた男は、きくりを避けようと慌てて急ハンドルを切るが、道路幅が狭いこともあり制御が効かなくなっていた。カーブに供えられた花束がライトに浮かび上がる。
 トラックから飛び出した輪入道が瞬間車輪の姿になるが、人の姿でトラックを何とかギリギリで静止させる。タイヤからは黒い煙が立ち昇っていた。
 「同じ場所で死ぬなんて、お前の弟も望んじゃいないだろ」

 老人の家の中に入った男。布団に寝かされた老人のまわりには、きくりの取ってきた花が飾られていた。
 「あんたに、だって」
 骨女が引き出しに入っていた封筒を男に手渡す。
 その時、不審な音と共にぱらぱらと天井から何かが落ち始める。
 「やばいぞ、この家」 (一目連)
 「すぐに出るんだ、お前もだ」 輪入道に促され外へ出る男。
 轟音と共に崩れ落ちる老人の家。
 「主のあとを追ったか…」 (輪入道)
 へたり込む男。
 「オレ、てっきり強欲ジジイだとばかり思ってたから」
 はっと気付き男はまわりを見回すが、既に誰もいなくなっていた(夜は明けはじめていた)。
 手の中の手紙を見返し、え? となる男。

 「この土地は事故で亡くなった高校生の遺族に譲る、もちろん立退き料も。そうあの遺言状には書いてあったよ。せめてもの罪滅ぼしだってね…」 (骨女)
 「輪入道〜、ゴロゴロゴロ〜」
 きくりがでんぐり返りの要領で、山の斜面を転がっていく。
 「俺たちも帰るか」と、一目連と骨女が顔を見合わせる。
 骨女が「バカやってんじゃないよ」と言いつつ、ふたりは斜面を降りていく。
 「主の後を、追いたかった?」 (あい)
 山の上から、老人の家と交差する道路を見ていた輪入道にあいが問いかける。
 あいの方に向き直った輪入道はにかっと笑うと、
 「そんなことしたら、お嬢に会えなかっただろ」
 そう言うと輪入道はゆっくりと山を降りはじめ、あいも静かに彼らのあとを追った…



 ☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆ ―☆


 今回の物語的チェックポイントとしては、「依頼者が糸を解く前にターゲットが死亡」(これはいつか来るかとは思ってましたが)と、「輪入道の過去というか前世が、文字通り輪(車輪)であったこと」でしょうか。
 主を想う牛車の車輪が、何がどうなって地獄で朽ち果てそうになったのか、それはそれで疑問が増えましたけどね。

 また、内容もなかなか深かったと思います。
 道が整備されないために不便な思いをしたり事故がおきたりすれば、一日も早く道を完成させて欲しい、邪魔な家に立ち退いてもらいたいという思いは間違ってはいないでしょう。
 一方、ずっと家はここに建っていたのに、後から邪魔だからどけと言われても納得出来ない、死ぬまでずっと静かにここで暮らしたいと望むことを、単なる我儘と決め付けることも出来ないでしょう。

 それで思い出したのは、確か原発についての考え方で「総論としては賛成、各論としては反対」というものでした。
 つまり国・国家全体としては原発を作るのに賛成だが、それが個人的な事情となると反対であるという、勝手と云えば勝手な理論なのでしょうけども…

 話を戻しまして。
 自分が利用する某駅近くでも、道路整備が行われた時、なかなか立ち退かない家についての話になった時、つい「なんでいつまでも立ち退かないのかな」と言うと、判で押したように「そりゃ立ち退き利用を吊り上げるためだよ」という答えが返ってきたのを思い出しました(「立ち退かない=立退き料の吊り上げ」という考え方は全国共通なのかもしれません)。

 しかし行政も、はじめからその家を避けて道路計画を立てればいいのに、何故そんな立ち退きが必要な計画を立てたのか意図が見えません。
 そしてこういう計画は一度決められると、どんなに理不尽でも、変えられることはまず滅多に無いのですよね…

 そして結果的に言えば、男は老人を地獄へ送らなくてよかったと思います。老人の心(本心)は手紙からもですが、カーブに備えられた花束からも察せるでしょうし。
 現実的なことをいえば、あの遺言状にどれだけ法的な拘束力(文面通りに実行させる力)があるのかは少々心もとない気もしますが、老人の気持ちは伝わると思いますので、法的にどうこう言うのはある意味野暮なのかもしれません。

 
 さてさて。
 次回は前期初期から「こういう話、無いのかな」と考えていた『病気、または老齢で先の長くない人間が依頼者となった時、地獄の疑似体験でその辛さを味わった依頼者が、糸を解くまでの葛藤のドラマ(引いた次の瞬間に死が訪れる場合も考えられる)』(長い… ;)に近い展開になるのでしょうか。

 次回も色々と期待出来そうです。

posted by セレネ at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 地獄少女 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/32053283
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。