2007年03月04日

地獄少女二籠 第18話 「あの人の記録」

 予告を見た感じでは、依頼人(?)・里奈は、父の後添えにもらった女性とどうにも馬が合わなかったが、その女性が事故で寝たきりになってしまい、自分も介護しなければならなくなったが、そこに介護する者とされる者との間に軋轢が生じる ― という線かと思いきや、実は…の線できましたね。




 ある家の一室。介護用のベッドに上半身を起こし、食事を食べさせてもらっている中年の女性(美千代)と、介助する若い女性(里奈)。
 ベッドに上のテーブルには食事を載せた盆とティッシュ、ベッドの脇には折りたたみ式の車椅子が置かれていた。
 若い女性が今まで手にしていた皿を盆に置こうとした瞬間、
 「口(くち)!」
 という鋭く厳しい声が響く。黙ってティッシュで口元を拭く女性。
 拭き終えると、女性は再び小鉢を手にすると、中年の女性の口元へスプーンを運ぶ。
 (この日私は、この人を地獄へ流すことを決意した ―)

 半年前 ―
 蝉の声が響く夕暮れ時、今夜は遅れるわけにはいかんぞ、と背広を着た父は里奈を急かしていた。返事をしながら鏡の前で着ていく服を決めた里奈は、嬉しそうに微笑んだ。
 とある賑やかな中華料理店。
 そこでは里奈と恋人(婚約者)・誠人とその家族が集い、(婚約式(?)を兼ねた)会食が行われていた。双方とも和やかに話が進む。
 帰り道、ふたりきりになった里奈と誠人は歩きながら話をしていた。式は春に決まり、里奈は幸せだった。

 ある日里奈の会社に父からの電話が入る。ただ事ではないその様子に里奈は嫌な予感を感じる。

 父の話というのは、交通事故で身体の不自由になってしまった母を引き取りたいというものだった。しかも事故は母の不注意だという。落ち着いてくれという父に落ちつけるわけないと里奈は反発する。

 里奈の回想―
 里奈はおぼろげにしか母のことを憶えていなかった。物心つくかつかないかのうちにいなくなったからだ。
 記憶の中の母は笑ったことが無かった。
 父と庭で遊んでいる時も、縁側で母の隣でおはじき遊びをしている時も…
 母が行った先が他の男の元であると知ったのは中学に入った時だった…

 事故なんて自業自得じゃない、うちで引き取るなんてお人よし過ぎる、と里奈は反対する。
 引き取るのは勝手だけど、私は一切手伝わない! と言い捨てるように宣言すると、里奈は自室に戻りベッドに倒れこむ。

 そうして母は車椅子に乗って戻ってきた。「お帰り」と父。
 それを二階から見ていた里奈の部屋に父がやってきた。介護はしないにしろ同居はするし母でもある。挨拶くらいはしなさいと言う父に連れられ母の部屋を訪れる里奈。
 だが母の開口第一声は、父娘がノックをせず部屋へ入ってきたことを咎めるものだった。そして引き取ってもらったからといって卑屈にはならない、引き取ったのはそちらの勝手なんだから、と母は続ける。
 あまりの言い様に「ちょっと…!」と身を乗り出した里奈だが、父に制止される。
 それどころか頭を下げる父と、分かればいいと横を向く母の態度に納得のいかない里奈。

  ― どうやら父は、何か母に負い目があるようです。だから何を言われても、強く出られないのでしょう。


 母のケアプランを立てるためにケアマネの女性がやってくるが、年齢的なことや自身の過失のある事故ということもあり、介護保険の申請は無理で、業者に頼むにしても全額家族の負担になるという。
 ここはお元気なおふたりに頑張って下さいとしか言えないと言われ、父娘はうなだれる。

 ベッドの上の母。右手には何かを持っている。虫の音が静かに聞こえてくる。きくりは家の塀の上(?)に立っていた。隣の家の屋根にはあいと輪入道の姿が。
 「俺ならあんな婆さん近付きたくもねえが、子供は怖いもの知らずだなあ」(輪入道)

 一ヶ月前 ―
 里奈は会社で凡ミスを繰り返すようになっていた。上司のしっかりしてよ、という注意にも頭を下げるしかない。
 一方、家では母の横暴は続いていた。
 些細な事でも呼び出しコールを押し続け、父はそのたびに母の元へと飛んで行っていた。
 見る間に憔悴していく父を放ってはおけず、里奈は結局母の面倒を見るようになっていた。
 だが少しでも気に入らないと、母は聞こえよがしな嫌味や文句を言い、挙句は「虐待だと訴える」とまで言い始める。
 母のそんな言動に、ぐっと堪える里奈とそれらの様子を障子の間からそっと窺い見る父…

 居間でテレビを観ている里奈と父。そこでは都市伝説のひとつとして「地獄通信」が取り上げられていた。
 それを観ながら、そこに母の名を書き込もうかなーと冗談ぽく言う里奈に、父は冗談でも止めなさいとそれをたしなめる。
 「どうしてお母さんのいいなりになるの?」この里奈の尤もな質問(疑問)にも、父は何も答えず黙り込むばかりだった。

 虫の声。手の中の何かを見ている母。
 「ねえ」突然声がした。きくりが縁側に腕を組み乗せ、そこにちょこんと頭を乗せていた。
 「どこの子?」 「どっかの子」 「名前は?」 「きくり」 「そう」
 「ねえそれ何?」 握られた手が更に握り締められる。 「なあに?」
 「なんでもない、なんでもないもの」 「ほんとに?」 「ほんとよ」

 夜。地獄通信にアクセスした里奈は、母の名を送信する。半信半疑だった里奈の前に地獄少女が現れた。相手を地獄へ送る方法と、その代償が何かを知る里奈。
 「あとはあなたが決めることよ」

  ― あの人の『記録』を付けているのは里奈だから、でしょうか、いつもなら「あいのセリフで説明」される部分が、里奈のセリフになっています。これは「記録する者の視点」という意味なのでしょう。


 一週間前 ―
 里奈は婚約者から式の延期を切り出される。
 しばらく(母の)様子を見ようという言葉を繰り返す彼の態度に、彼の両親が結婚に難色を示しだしたことを知る。

 夜の自宅。すまないと繰り返す父に、里奈も止めてよと繰り返す。
 そんなに言うならあの人連れてこの家を出て行ってよ、と思わず叫んだものの、すぐに我に返ってご免なさいと里奈はうなだれる。
 里奈の言葉にしばし悩んでいた父だったが、ようやく重い口を開いた。
 母には一生の負い目があるのだと。そして一生黙っているつもりだったが、里奈は母の子ではないのだと。
 驚きで里奈の目が見開かれていく ―

 子供を産めない身体だと分かった母は、子供好きの父のため、養子を取るのではなく、父の実子を他の女性との間に設けることを提案したのだった。迷った末父はそれを受け、そして生まれたのが里奈であると。
 「私が馬鹿だった。あれは私を試していたんだ。美千代は変わっていった。私にも誰にも心を開かなくなった。そして…出て行ってしまった…」
 父はその後も里奈に黙って母と会っていた。だが母はそれを拒絶し、父をなじり困らせ続けた。そしてあの日 ―
 母はいっそ楽にしてあげるわ、という言葉を父に残し、走ってきたトラックの前に身を躍らせたのだった…
 母をあんな人間にしてしまったのは自分の責任なのに、里奈を巻き込んでしまってすまない、と父。里奈は実の母の消息を尋ねるが、実母は既に他界していた。

 引き出しから藁人形を取り出し、それを手に心で呟く里奈。
 (あとは私が決めることだ…)
 ちょうどそこを通りがかった父が、ふと何かに気付き障子の開いたところから里奈の部屋を見ていた。

 半月と満月のあいだくらいの月。再びきくりが母の部屋を訪れていた。
 「また来たの」 「それ頂戴」 「だめよ」 「頂戴」
 「(諭すように)これはあげられないの。だめよ(きっぱりと)」
 きくりはすっと立ち上がると、足音を立てて走り去っていった。

 よく晴れた休日。父は車椅子で母を表に連れ出した。
 それを見送ると、里奈は決心したように家の中に飛び込み、藁人形を探すが、あるはずの場所にそれは無い。部屋中をひっくり返して探すが見つからない。既に陽は傾きかけていた。

 「ムダよ」
 突然のあいの声に里奈は立ち上がった。
 「どこへやったの? 返して。あれが今すぐ必要なの」
 「あれはもう、貴方のものじゃない」 「え…?」

 夕暮れ時。列車用の陸橋の掛かった川べりの道。そこを車椅子を押しながら父が母と歩いていた。
 「お前の好きだった景色だ、憶えているか。お前とふたり、もう一度ここへ来たかったんだ…」 (父)

 玄関を飛び出し、転げるように走り出していく里奈。

 「許してくれないか」 「許す?」
 「私を許し、里奈が生まれたことを祝福してやって欲しい」
 「本気でおっしゃってるの」
 「ああ。お前との思い出を美しいままにしておきたい」

 走り続ける里奈。

 川を望む夕焼けの中、陸橋の近くの川べりで佇むふたり。母の髪が穏やかに風に揺れる。
 「綺麗ね、きれい…」
 父が静かに口を開いた。
 「里奈が大事なんだ」 無言の母。
 「だからひと言、私を、里奈を許すと言って欲しい。お願いだ」
 だが ―
 「言えません」 
 間髪を入れず、母の答えが返ってきた。貴方を許しあの子を認めることなど出来ないと。
 どうしてもか、という父の再びの問いにも川面を向いたまま、黙って首を立てに振る母。
 陸橋を列車が走り抜けていく―

 母が父の方に顔を向けると、父の手には藁人形が握られていた。
 「どうか許してくれ…」
 苦悶の表情のまま、赤い糸に手を掛ける父。
 母は何も言わず正面を向き、静かに目を閉じた。

 必死に走る里奈は、川べりの父と母の姿を見つけ、滑るように土手を駆け降りていく。
 途中陸橋の脚で視界が遮られ、ふたりの姿が見えなくなる。
 陸橋の上を、今度は反対方向に列車が駆け抜けていく。

 土手を降りきり、父の元へ近付く里奈だが、父の様子がおかしいのに気が付いた。
 「お父さん…?」
 「これでいいんだ、これで…」
 父の手の赤い糸に気付く里奈。次の瞬間、糸は風に飛ばされていく。

 地獄流しの船の中。母は黙って乗っている。岸辺からそれを見る三藁たち。

 川べり。黙って歩き出す父。
 「お父さん…?」
 慌てて声を掛ける里奈だが、父は虚ろな表情で待っていてくれと呟き、川べりの道を歩き続けていった…
 (父は私を救い、あの人を救ったのだと思った…)

 ふと気付いて車椅子に目をやると、主のいなくなった椅子の上には、小さく丸く光るものが乗っていた。
 それを拾い上げ、手のひらに載せる里奈。

 (憶えていた ―)

 里奈の手が少女のものへと変わる。
 幼い日の里奈が母に向けて差し出した手のひらに乗せていたひとつのおはじき。
 母はその手に向かって自分の手を差し出し、里奈は母の手のひらにそのおはじきを乗せたのだった。

 (もしこれが、荒んでしまったあの人の人生で、たったひとつ人間らしい心を繋ぎとめていたものだとしたら、私はあの人を許すことが出来るかもしれない。
  けれどそれを確かめることは、もう永遠に出来ないのだ……)




 ☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆ ― ☆― ☆ ― ☆ ― ☆

 なんとも切ない終わり方でした…
 今さら言うことでもないですが、今期の地獄少女は、家族をテーマとした話が多いですね…

 そしてまず序盤のポイントは「子供が出来れば大人の実感が湧くわよ」というセリフでしょうね。
 子供が産めない、引き取った子の母親に “なる” ことが出来なかった母は、いくつになろうと “大人になりきれない(大人の実感の無い)大人” という意味が与えられていたのかもしれません。

 そう考えると母の里奈に対する横暴ぶりは、「嫁いびり」の感があるというよりも、「子供の我儘」の方が近いのかもしれません。
 それにブラスして、女性特有の嫌味っぽさなども加味されるので、余計に視聴者は里奈が可哀相だという方向に感情が向いていくつくりになっていると思います。
 まあ里奈の母に対する反感はむしろ当然で、責められないでしょう。なにしろ里奈は、母は自分と父を捨てたのだと思っていたのですから。
 いくら身体が不自由になったといっても、そうそう割り切れるものではないですしね。

 そんな母がずっと手にしているもの…
 きくりに何? と問われれば「なんでもないもの」と答えているのに、頂戴とおねだりされれば、「(やんわりと)あげられないの。ダメよ」と返す…
 細かいことのようですが、「あげられないの。ごめんね」ではなく、「ダメよ」ときっぱりと拒絶の意味を込めて返答したところに、静かながら強い意志を感じたのは、自分だけでしょうか。

 そして今回、地獄通信のことを知るのはテレビ番組からで、父と里奈が一緒の時…というのも、意味を持っていますね。
 娘の部屋を通りがかり、手にしていた物が何なのか知った時、父は娘が何をしようとしているのかを察したのではないかと思います。
 そして引き出しから藁人形を取り出した時、おそらくはあいが現れて…

 七話の「絆」でも藁人形の所有権が移るということがありましたが、あれは依頼者が既に亡くなっていたので問題はないかもしれませんが、今回はあのままの契約で糸を引いていたら、地獄行きになるのは里奈だったので、それを知った父は、自分に所有権を移してもらったのでしょうね。
 自分のせいで妻を歪ませてしまったツケを、娘に払わせるわけにはいかないと…
 ところで、同じ人物を恨んでいて、肉親だった場合には、所有権の移譲は認められているのでしょうか。断言は出来ませんが、その可能性はあるのかもしれません。

 そして夕暮れの川べりの夫婦のやりとり。
 音楽と背景(景色)が切ないほど美しく、それが今回のラストを、より印象的なものにしていたと思います。

 川べりからの景色を見ながら「綺麗ね…」と呟いていた母は、この時既にこれから何がおこるのか予期していたのかもしれません。
 父が藁人形の糸に手をかけ許してくれと言った時に、静かに目を閉じ覚悟を決めたように俯いた姿は、これから起きることを受け入れているように感じられました。

 地獄行きの船の母を見て、骨女は「あれはあれで地獄だったんじゃないかね。あの婆さんにとってはさ」と言っていますが、実に言いえて妙だという気がします。

 あくまで推測ですが、母は絶対に父を許せず里奈を認められないという自分を曲げようとは考えていなかったと思います。
 けれどその気持ちに疲れていた面もあったのかもしれません。
 そして許すことの出来ない自分自身を許せなかったのも、憎んでいたのも、母自身だったのかも…

 また、父の説明だけでは詳しいことは分かりませんが、母を家に戻そうと何度も会っていたのは逆効果だったのではと思います。
 気持ちは分からなくもないのですが、会えば会うほど、話せば話すほど、母の心は頑なになっていったのではないでしょうか。いわゆる「過ぎたるは及ばざるが如し」という奴です。

 それから、夫(父)を試すようなことを言った妻(母)が愚かだったのか、妻の本心を見抜けなかった夫が馬鹿だったのか、私には分かりません。

 ただもし父が、母がいれば子供はいらないと答えていれば、母は幸せで歪むことは無かったかというと、それはなんとも云えなかったのではと思います。

 もし夫婦が老年になった時、母はこう思うかもしれません。
 自分は子供は要らないと言われて嬉しかったけれど、そのせいで子供や孫と過ごす幸せを自分は父から奪ってしまったのではないか…? もう手遅れで取り返しがつかない…! と、自分を責め続けるようになるかもしれません。
 または、あの時はああ言ってくれたけれど、今は悔いているのではないか、子や孫に囲まれて暮らす幸せの機会を失ったことを… と、疑心暗鬼に陥っていた可能性も皆無とは言い切れません。

 勿論上記のことは、あくまで仮定・推測・可能性ですから、問題なく人生を、老後を過ごしていたかもしれませんけどね…

 そうして母が地獄へ流された後に残されていたもの…

 これはとっくに読めていた方にはノーサプライズだったでしょうが、気付いていなかった自分には、最後の最後できましたね…

 もう確かめることは永遠に出来ない… 何故ならその人はもうこの世にはいないのだから…
 ここに個人的にちょっときました。
 このセリフを聞くたびに、切なくなっている自分です…



 さて次回は、かつての輪入道とあいとの出会いと、現代の旅館の客と仲居さん?のトラブル話のようです。
 さてはて、あいと輪入道の出会いはどんなもので、お嬢はどんな口説き文句(笑)で輪入道を仲間にしたのでしょうか。

posted by セレネ at 01:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 地獄少女 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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